翻訳ソフト実践ワークショップ

第5回 後編集とリライト

 「中間編集」を丁寧に行えば、最小限の修正で自然な訳文ができます。中間編集をすることで原文の意味がすでに頭に入っていますので、後編集では主に日本語の表現に注意を払えば良いことになり、ここまでくれば翻訳者にとっては大変楽しい作業になります。ただし、「中間編集」が不十分だった場合、ここからが地獄となります。
さて、PC-Transerには後編集に役立つ機能がありますので紹介しましょう。

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【1】翻訳ロックとユーザロック

 訳文を直接修正すると文番号の左側に黒い錠のマークが自動的に付きます。このマークの付いた文はロックされて再翻訳できないようになります。苦労して修正した訳文をうっかり再翻訳して元の状態に戻してしまうという悪夢を防いでくれる重要な機能です。翻訳ロックは、文番号の左側でクリックすることによって任意にかけることもできます。さらに、V10では「ユーザロック」という機能が追加されました。翻訳ロックの位置で右クリックすると白い錠のマークが付きます。これは翻訳者が任意に掛けるもので、自動的には掛かりません。
 訳文を修正したらとりあえず翻訳ロックがかかり、訳文が完成したら自分でユーザロックをかけるという使い方ができます。文番号の左側に何もなければ未処理、黒い錠があれば作業中、白い錠があれば完了と決めておきましょう。

 演習

【2】「オリジナル文」機能

 完成した訳文は、最終的に原文とともに翻訳メモリ(対訳データベース)に登録することになります。その際に、中間編集で書き換えた英文は元に戻してやる必要があります。原文ファイルを開いて該当個所を検索し、コピー・アンド・ペーストしてもいいのですが大変面倒です。そこで役に立つのが「オリジナル文」機能です。「編集」メニューから「オリジナル文」をクリックすると「オリジナル文」画面が開き、原文が表示されます。確認して「原文にセット」をクリックすると修正した原文がオリジナルに置き換わります。この機能があるので安心して原文を書き換えることができます。

演習

【3】モード変更と翻訳パレット

 対訳エディタで訳文の修正が一通り完了したら、モード変更をして「編集画面」にしてみましょう。訳文が空行やインデントなど原文のレイアウトで表示されるので推敲するには最適です。モードを切り替えると訳文が優先的に表示されますが、文単位で原文に切り替えることもできます。
 編集モードで作業するときは「属性」メニューから「翻訳パレット」を起動しておくと便利です。「翻訳パレット」の「詳細」ボタンをクリックすると、1文のみの対訳画面とその文の属性が表示されます。「編集画面」と「翻訳パレット」は連動していて「編集画面」の任意の訳文をクリックすると「翻訳パレット」の対訳も切り替わります。推敲していて原文を参照したいときには大変便利です。また、「訳文選択」のチェックをはずすと、編集画面の該当する訳文が原文に切り替わります。

演習

【4】ユーザー後処理して出力

 このスクリプトは最終的な用語統一のフィルタとして利用できます。ただし、変換テーブルを事前に作成しておく必要があります。変換テーブルはテキスト形式なので、テキストエディタなどを使って編集できます。正規表現も使えますので、工夫次第で文体の統一も図れます。基本的な翻訳スタイルガイドに合わせて変換テーブルを準備しておきましょう。

演習

【5】翻訳英文法の利用

 中間編集された訳文は、基本的には英文を機械的に日本語に置き換えた直訳文体なので、できるだけ自然な文章になるように書き換える必要があります。実は、通常の翻訳作業でも同じようなことが行なわれているのですが、翻訳者の頭の中でほとんど無意識に行われているので気が付かないだけです。この英日翻訳の過程で必要な転換のテクニックを、英文法の枠組みでシステム化したのが「バベル翻訳英文法」です(『翻訳英文法』安西徹雄著、バベルプレス)。
 後編集で行き当たりばったりに訳文を修正していたのでは能率が上がらず、文体の統一も図れません。そこで役に立つのが、「翻訳英文法」のルールです。例えば、「Ignorance of foreign customs can result in unexpected misunderstandings.」をPC-Transerで翻訳すると「外国の習慣についての不案内は、思いもよらない誤解に終わることがありえる。」という直訳文が出力されます。これを「公式2 名詞の中に文を読みとる」のルールを適用して、「〜についての不案内は」を「〜を知らないと」と読み替えて、それに合わせて後半も書き換えて「外国の習慣を知らないと、思いもよらない誤解を生ずることがある。」と修正します。「翻訳英文法」にはこのように後編集に役立つ31のルールがあります。

演習

 さて、中間編集を経て後編集を行い、やっと翻訳を完成させたと思ったら、また同じような文章が出てきてもう一度同じように修正しなければならないとしたら、うんざりすることでしょう。ところがPC-Transerには、そのような負担を軽減する「翻訳メモリ」機能が搭載されています。対訳データを登録しておくと、次に同じような文章が出てきたときに訳文を再利用することが可能になります。
月刊『eとらんす』 2004年2月号連動  Copyright© 2004 Babel K.K. All Rights Reserved.


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