英日・日英翻訳支援ソフト 「翻訳これ一本2002」シリーズ |
シャープの「翻訳ソフト」のルーツはワープロに |
インターネットが日常になった現在、海外のホームページを読むためのツールとして、翻訳ソフトは爆発的に普及している。パソコンを購入するとあらかじめ付属ソフトとしてバンドルされていることもまれではなくなった。そんな状況のもと各メーカーがしのぎを削るなかで、オリジナリティの高い機能を装備するシャープの英日・日英翻訳ソフト「Power
E/J」は人気商品のひとつだ。その最も新しい「翻訳これ一本2002」では、「おまかせ訳振り」や「おたすけ英作」機能などの英作特長機能強化はもちろん、語彙数を約10万語アップさせて計60万語とし、翻訳用辞書をさらに充実させた。さらに、業界で初めて、「iアプリ対応の携帯電話」とも連動した新しい英語学習機能を搭載し他のソフトとの差別化にも力が入れられている。 |
ところで、1980年代、シャープの「書院」といえば、ワープロの代名詞として一世を風靡していた。実はこのワードプロセッサにおける「カナ漢字変換」技術の開発が、現在の翻訳ソフトの中核となる「翻訳エンジン」の研究に繋がっていったのである。
「カナ漢字変換」で必要とされるのが、いわゆる自然言語(普段使うことば)に対する言語学的知識と、さらにそれをプログラム化して処理していくという、工学的技術。現在翻訳ソフトの開発に携わる大手メーカーが、やはり本来もっていた自然言語処理技術を活用しているというケースは少なくない。こうしたメーカーの中でシャープがユニークであるのは、普通翻訳ソフトの開発が工学系の技術者中心になっているのに対して、言語学系の技術者が強みを発揮しているという点だ。こうした開発者のバック・グラウンドの違いがシャープならではの独創的な発想を生み出していくことになる。 |
◆スペシャリストから一般ユーザーへ
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シャープでは、1981年から機械翻訳のリサーチが始まり、1985年UNIXワークステーションで動く、翻訳ソフトが誕生する。およそ500万円と高額であったが、企業における紙の文書のデータ化から翻訳までを省力化できるという点で高い評価を得た。しかし、一般ユーザーが手にする類のものではなかった。薬品会社、航空会社などの大企業や官庁といった大量の文書の処理を必要とする場所で、翻訳ソフトは活用されるようになった。
一般的に翻訳ソフトは、「ユーザーが鍛えて使いやすくする」といわれる。これは、ユーザーが自分の目的に合わせてソフトをカスタマイズするということである。通常、翻訳ソフトは、ただ原文をそのまま入力すれば完璧な訳文が出てくるというわけではない。ユーザーは、原文をあらかじめ翻訳ソフトが認識しやすいような簡単な構文に直す「前編集」や、専門用語などを登録した「ユーザー辞書」を作っておくといった作業が必要とされる。「鍛える」とは、こうした細かな調整をしていくということなのである。このような使い方をするのは、より完全な訳文を必要とするプロの翻訳者、あるいは業務として翻訳をするユーザーである。これらの使い手にとってはシステムをカスタマイズしやすいということが重要となる。 |
しかし、用途に合わせてカスタマイズすること自体容易ではない。さらに、逆にシステムをいじることによってトラブルも生じやすくなる。そこでシャープの開発者は発想を転換した。多くのユーザーにとって複雑なカスタマイズ作業は必要なのか、むしろそうした機能は重荷になるのではないか、と。その結果「システムにマスクをかける」、つまりシステムでいじれる部分を最小限にするという方針が決まった。
インターネット時代を見据えて
そもそも、このような逆転の発想の背景には、インターネットの急速な普及があった。インターネットの利用者の多くは、気楽に外国のホームページを閲覧し、その内容を知りたいと思っている。こうしたユーザーにとって、厳密な訳文は必要でなく、要は自分が内容をおおまかに把握できればいいのである。その意味では手間のかかる「前編集」や訳文をリライトする「後編集」などの作業はなるべくソフトの方にまかせたいところだ。 |
そこで開発スタッフは、「前編集」「後編集」のノウハウをあらかじめ翻訳エンジンに組み込み、「基本的に最初に出力される訳文の精度を上げる」ことに尽力した。一方でカスタマイズの機能を最小限に絞り込み、複雑な操作を省いた。そうして出来上がった一般ユーザー向け翻訳ソフトが「翻訳これ一本」なのである。
「前編集」に相当するのは「英英変換」、つまり入力文を英語の段階で書き換える行程で、これによって複雑な英文にも対応。続いて通常の英日翻訳を行った後、「後編集」に当たる「日日変換」で、さらに読みやすい日本語に変換する。この「マルチレイヤー翻訳方式」が高い精度を達成する秘訣だという。20年の研究開発に支えられた独自技術というわけだ。
(次号に続く) |
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