「第3回 法律翻訳に関する本について」
(バベル翻訳大学院(USA) ディーン)
<質問>
法律翻訳を学びたいと思っておりますが、法律翻訳に関する本を紹介して
下さいませんか。
お答えします。
1. 法律翻訳に関する本は3冊
あとで述べますように、英文契約書の作成に関する本は多いですが、法律翻訳というキーワードでアマゾンを検索しても、僅か3冊しか出てきません。下記の通りです。
「法律の翻訳 ― アメリカ法と日本法の危険な関係」(杉本泰治著・勁草書房刊)
この本はアメリカ企業と日本企業の合併事業にたずさわった著者がその折々に考えたことや用語等を説明した本で法律の翻訳について体系的に述べたものではありません。私も買って読んでみましたがお勧めできる本ではありません。
「法務通訳翻訳という仕事」(津田守著編集・大阪大学出版公刊)
裁判所の法廷通訳人として長い経験を有する著者が法廷における通訳翻訳に仕事について書いた本です。法律翻訳について体系的に書かれた本ではありません。しかし裁判所用語については参考になると思います。
「通訳語としての日本の法律用語 ― 原語の背景と欧州的人間観の深究」(古田裕清著・中央大学出版部刊)
日本は明治期にドイツ法を中心に多くの西欧の法律を導入しその時点で対応する法律語を造語して行ったわけですがその背景を原語に焦点を合わせて考察した学術書です。
法律翻訳をキーワードにして検索できる本は以上の3冊だけです。独学用に向く法律翻訳の本はありません。バベル翻訳大学院のインターナショナル・パラリーガル法律翻訳専攻の基本教材の「英日契約書・法律翻訳@A」と「日英契約書法律翻訳@A」がありますが、これについては後で触れます。
2. 英文契約書に関する本は多い
英文契約書の本はたくさん出版されています。英文契約書の読み方や書き方に関する本です。アマゾンで調べたところでは全部で35点が出版されていました。この他に法律英語の本が7点ありあます。(これらの検索リストはバベル翻訳大学院の院生の方は大学院のサイトで利用できるようになっています。)
法律翻訳の本が少なくて英文契約書の本が圧倒的に多いということは、日本でのニーズが英文契約書を読み書きすることにあるということを物語ります。日本のビジネスマンは仕事の上でまず英文契約書を読み、書き、交渉しなければならない時期が長く続いた(今でもそうですが)ことから、このように英文契約書の本が多く出版されたものなのでしょう。
3. 法律翻訳者の需要
ところがインターネット上で翻訳者の求人を検索して見ますと法律翻訳者、契約書翻訳者の需要が非常に高いことがわかります。翻訳会社が経営する翻訳スクールでも法律翻訳のクラスが多いことがインターネット検索でわかります。
つまりこれは、日本のビジネスマンは仕事上のニーズから英文契約書の読解や作成を求めて多くの本を買って勉強していたが、一方、英文契約書を翻訳会社に発注することも多くなったということなのでしょう。長大な英文契約書を日本語で早く読まねばならないことが理由です。
4. 法律翻訳の学習法について
バベル翻訳大学院の授業では「法律文章 日本語表現ルールブック」と大量の日本語演習教材で日本語の法律表現を学習し、一方で「リーガルドラフティング・ルールブック@A」で英語の法律表現を学習し、その上で前述の「英日契約書・法律翻訳ルールブック」及び「日英契約書・法律翻訳ルールブック」で法律翻訳を学ぶしくみになっています。
つまり法律文を日本語と英語の両方で読解し理解できるようになってから、文から文へのアプローチで翻訳を訓練するわけです。法律翻訳のような専門の翻訳はこのようなアプローチが一番効率が良いといえます。
(The Professional Translator 10月10日号より)
<プロフィール>
石田佳治
バベル翻訳大学院(USA)ディーン。
神戸大学法学部卒業、ワシントン州立大学ロースクール・サマーセッション、ウイスコンシン大学ロースクール・サマープログラム、サンタクララ大学ロースクール・サマープログラム修了。主要分野は国際法務・アメリカ法。
商社法務部長(蝶理)、スイス系外資企業(ロシュ、ジボダン・ルール)法務部長など一貫して法務畑を歩んだ国際法務専門職で内外のロイヤーに知己が多い。
著書に「リーガルドラフテイング完全マニュアル」「欧米ビジネスロー最前線」「シネマdeロー」などがある。