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「第5回 日本語の法律文を先に読む」

石田佳治
(バベル翻訳大学院(USA) ディーン


石田佳治   <質問>

法律翻訳を学ぶのに日本語の法律文と英語の法律文のどちらかから勉強して行ったら良いでしょうか。


お答えします。

1. 日本語本法律文を読むこと・慣れることの重要性

 文芸翻訳でも技術翻訳でも、先達の翻訳者が強調するのはまず日本語が書けるようになることですが、これはとりわけ法律翻訳においても同様です。法律翻訳の訳文を読むクライアントは弁護士や企業法務部門のような、いつも法律文を読んでいる人達ですから、法律文の文体の規則に一致していない翻訳文については特にセンシティブです。

 法律文における句読点の打ち方は一般の文芸作品や新聞雑誌記事のものとは違います。法律文における接続詞や条件の書き方は一般の作品や記事のものとは違います。

 契約書の条文や法律の条文はそのための独特の文体で書かれていますから、翻訳者はまず、ターゲット言語である日本語の法律文をそれらしく書けるようにならなければなりません。そのためにはたくさんの法律文・契約文を読み、これに慣れることが重要です。

2. まず契約書を読む

 契約書の文体は概ね法律家が書きチェックしたものですから、これをたくさん読むことです。

(1)下記にウェブ上で無償で契約書のサンプルが読めるサイトを掲げましたので検索サーフィンをして読んで見ましょう。

http://free.ac-lib.jp/

契約書など法律文書の文例

http://keiyakudaizen.elite7.info/index.html

契約書文例書式集(パート4)・・・商取引に関する契約書等各種

http://keiyakuformat.kokuranet.com/

契約書文例書式集(パート1)・・・土地建物の賃貸借に関する

http://kakikata-keiyaku.kokuranet.com/index.html

契約書文例書式集(パート2)・・・不動産の売買契約書をはじめ

http://keiyaku.honami.info/

契約書文例書式集(パート3)・・・金銭貸借・担保・保証・贈与

http://kaisha-seturitu.net/contract/

契約書サンプル一覧

http://www.keiyakusho.net/sample.html

契約書サンプルページ

(2)もう少し具体的で特殊な契約書を下記に掲げます。クレジットカードの規約やNHKの受信契約、レンタカーの借用の際の契約書などですが、みなさんの誰でもが関係がありながら面倒がって読んで来なかったものでしょう。今回は勉強のつもりで少し丁寧に読んで見ましょう。

http://www.hokuyobank.co.jp/info/contract_120110.pdf

銀行取引約定書のご案内

http://rent.toyota.co.jp/rental/main07.asp

レンタカー貸渡約款 / トヨタレンタカートヨタレンタカー

http://www.smbc-card.com/mem/kiyaku/pop/kiyaku_kojin.jsp

三井住友VISAカード&三井住友マスターカード会員規約(個人会員用)

http://pid.nhk.or.jp/jushinryo/compliant_2.html

NHK受信料の窓口-日本放送協会放送受信規約

http://www.jtb.co.jp/operate/yattukan.html

旅行業約款

http://www.tavigator.co.jp/help/annai/riyou.html

国内宿泊予約サービス利用規約

3. 法律用語・法令用語の書き方

 上述の契約書をいくつか読むと、法律文の句読点(「。」や「、」)の打ち方や接続詞(「及び」「並びに」や「又は」「若しくは」)の使い方が自然にわかって来る筈ですが、このような法律文の書き方の規則を確認するために、ウェブ上にある法律用語・法令用語の書き方のサイトを検索して読んで見ましょう。意外に知らなかったことが書いてあります。

http://adminn.fc2web.com/houmu/kisoyougo/kisoyougo.html

法律用語のキソ

http://www5f.biglobe.ne.jp/~r_osanai-jimusho/

契約書の達人

http://www.tsuge-office.jp/keiyakuyougo.htm

相続・契約用語の基礎知識 

http://www.lawdata.org/files/law2.html

法制執務、立法技術、改正技法、法令用語

 上記の法律用語・法令用語は無理に暗記することはありません。一応これらのサイトを知っておいて、後日迷ったときに確認すれば良いのです。何度も確認すれば自然に身について来ます。

4. 条例を読んで見る

 契約書を読むことを通じて法律用語・法令用語に慣れたところで、条例を読んでみましょう。条例とは地方公共団体が国の法律とは別に定めるもので、全国の各地方自治体(都道府県や市町村)で定めています。ここでは東京都の「暴力団排除法令」「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」及び千代田区の「生活環境条例」を掲げました。たとえば「ストーカー行為」は上記の二番目の暴力的不良行為防止条例に規定されており、千代田区内での路上禁煙は上記の生活環境条例に規定されていますが、どのような文体で規定されているかに留意して読んでみましょう。

条例

http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/image/jourei.pdf

東京都暴力団排除条例 平成23年10月1日施行

http://regulations-jp.info/meiwaku/tokyo01.html

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例

http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1012150001.html

東京都青少年の健全な育成に関する条例

http://www.city.chiyoda.lg.jp/poisute/L01/jyourei.html

千代田区生活環境条例

貴方の住んでいる都道府県・市町村の条例は全国条例データベースに出ていますからご興味があったら引いてみましょう。

http://joreimaster.leh.kagoshima-u.ac.jp/

全国条例データベース

5. 法律・法令を読む

 最後に法律・法令を読んでみましょう。下記のデータベースは総務省が構築運営しています。まず最初に自分が引いてみたい関心事をきめましょう。貴方の相続のことを知りたいのであれば民法の第5編相続のところを検索し条文を読んでみます。翻訳権について知りたければ著作権法を検索し第2章著作者の権利、第3節権利の内容、第3款著作権に含まれる権利の種類、そして翻訳権の規定(第27条)を読んでみます。法律を読むに当っては、このように探しあてる条文の見当をつけて検索して行くことが必要です。

http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

法令データ提供システム

6. 翻訳者として重要なこと

 繰り返しますが法律翻訳者として重要なことはターゲット言語(日本語)の訳文が正しい法律文体で書かれていることです。以上に述べたような勉強を確実にやって行けば、そのような能力が確実に身につきます。


  (The Professional Translator 10月25日号より)
 

<プロフィール> 石田佳治
バベル翻訳大学院(USA)ディーン。 神戸大学法学部卒業、ワシントン州立大学ロースクール・サマーセッション、ウイスコンシン大学ロースクール・サマープログラム、サンタクララ大学ロースクール・サマープログラム修了。主要分野は国際法務・アメリカ法。 商社法務部長(蝶理)、スイス系外資企業(ロシュ、ジボダン・ルール)法務部長など一貫して法務畑を歩んだ国際法務専門職で内外のロイヤーに知己が多い。 著書に「リーガルドラフテイング完全マニュアル」「欧米ビジネスロー最前線」「シネマdeロー」などがある。