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バベルが開発した不変の翻訳ルールです。

柴田裕之(しばたやすし) 「翻訳英文法 基本ルール」講座講師

早稲田大学理工学部建築学科卒業。 Earlham College(米国) 心理学科卒業。
バベル通信本科、通学専門課程修了。修了後、バベルで講師を務めながら出版分野を中心に翻訳業に従事。

[主な訳書]『サピエンス全史』(河出書房新社)、『「死」とは何か? イェール大学で23年連続の人気講義』(文響社)、『死、眠り、そして旅人』(彩流社)、『モラル・コンパス』(実務教育出版)、『ドン・ジョ ヴァンニ』(白水社)、『マフィアと官僚』 (白水社)、『精霊の街デリー』(凱風社)、『20世紀の歴史別巻』(平凡社)、『ヒーローの輝く瞬間』(NHK出版)、『ディマジオの奇跡』(宝島社)ほか [著書] 『かんたん英語でピタリ通じる英会話の本』(小学館)、『Newsweekパワ-ボキャブラリ-1000語』(以上共編著、バベルプレス)。

翻訳英文法とは

 翻訳という作業には、原文の内容を読み取る能力と日本語で表現する能力に加えて、翻訳の変換技法が必要です。そのひとつとして挙げられるのが、機械的に英語を日本語に置き換える、いわゆる英文和訳の技法でしょう。これをマスターすれば、たしかに大学入試では点がとれるのかもしれませんが、できあがった訳は、日本語としては不自然な場合が多く、意味が伝わりづらいこともよくあります。

 それでは、長い時間をかけ、ひたすら試行錯誤を繰り返し、先人の訳の真似をしながら技を盗み、体験に基づいて少しずつ感覚的にコツをつかんでゆくしかないのでしょうか。これは、あまりにたいへんですね。

 たしかに、原文は契約書などの定型化された部分を除けば、毎回すべて違うので、翻訳にあたっては臨機応変が建前です。とはいえ、どんな原文の翻訳であれ、英語の構文や発想を日本語の構文や発想に変換する点は共通しています。この変換の原則を体系的にまとめたのが翻訳英文法なのです。不自然でわかりづらい日本語に機械的に置き換える英文和訳にかわって、翻訳英文法の基本ルールをマスターすれば、変換作業の基本が確立され、翻訳の質も効率も上がることでしょう。

 この講座はテーマごとに全部で8つのレッスンに分かれ、さらに各レッスンはポイントごとに3~5のユニット、合計で31ユニットに分かれています。一気に勉強することもできますが、負担にならない程度に、小刻みに取り組むのも有効な方法でしょう。それぞれのレッスンやユニットは独立性が高いので、順番にこだわる必要もありませんし、苦手な箇所を重点的に学ぶ手もあります。

 また、なにも一回で完璧にマスターする必要はありません。ほかの講座の学習や自習などをしていて、問題にぶつかるたびに、該当するレッスンやユニットに立ち戻り、復習すればよいのです。そうでなくとも、ときおりさっと目を通したり、音声講義を聴いたりして、おさらいをすると、翻訳英文法の基本ルールが頭にしっかり定着することでしょう。

 どうぞ、この講座をじゅうぶん活用して、翻訳の変換技法の基本を身につけ、今後、あらゆる翻訳の場面で役立ててください。

「翻訳英文法」その源流を訪ねる

バベルが開発した翻訳メソッド「バベル翻訳英文法」。

その始まりは、1980年2月号の「翻訳の世界」にあります。それから1982年 3月号まで同誌に17回にわたって連載されました。
そして同年4月、単行本としてバベルプレスから出版され、現在も版を重ね、ベスト&ロングセラーとなっていることはご存知だと思います

皆さんが必ず触れ、身に付けられる「翻訳英文法」。今回は、「翻訳の世界」に連載されたその第1稿(序章)の一部をご紹介します。そこには、「翻訳英文法」の思想の源が見えるからです。


翻訳英文法Ⅰ 序章 安西徹雄  

またまた編集部の杉浦さんに乗せられて、今月から連載を始めることになってしまった。題して「翻訳英文法」。別に英文法を翻訳しようというのではない。「翻訳者のための英文法」とでもいった狙いである。といっても、英文法の講義を始めようというのでもない。私にはそんな資格はないし、おおかたの読者もそんな興昧はないだろう。私自身もそうだったが、英語は結構好きだったけれども、学校時代、英文法の時間は大変に苦手だった。読者にも、そういう方は少なくないのではないかと思う。  それなら、いったいこの連載では何を始めようというのか。  翻訳という作業は、とにかく非常にこみいった、複雑なプロセスである。いろいろのレヴェルの判断を同時にくだし、総合的、多角的に処理していかなくてはならなしい。早く言えば、要するに出たとこ勝負的な要素が非常に多い。だから、誰かに翻訳のコツを教えるなどというオコがましいことを始めると、どこからどう手をつけていいものやら、途方にくれてしまわざるをえない。結局のところ、徒弟制度的な実地訓練で、つまりは見よう見まね、経験とカンでわかってもらうより仕方がないということになる。なるほど、ある程度は一般的な原則のようなものを立てることもできなくもない。しかしそうした原則と、実地の作業とがなかなか結びつかないというまどろこしさがどうしても残る。  なんとか、翻訳のノウハウを、もう少し効果的に組織化する方法はないものか。しっかりしたシステムを持ちながら、しかも実地の作業に的確に役立つ整理の仕方はないものか。  実はこの連載のアイディアは、この組織化に、伝統的な英文法の枠組みを利用してみようということなのである。つまり、名詞、代名詞、動詞(時制、法、態)、あるいは話法といった項目に従って、それぞれ、例えば名詞なら名詞を訳す時、翻訳上気をつけるべき点としてどういった問題があるかを、名詞の項目にまとめてみようというのである。こうすれば、あくまでも英語そのものに密着しながら、しかも、翻訳上のノウハウを明確に体系化し、いつでも必要に応じて参照することもできるのではないか。  このアイディアの発案者は、実はほかならぬ編集長の杉浦さんである。杉浦さんの話を聞いて、私も常にそうした体系化の必要性を惑じていたので、うっかり興昧を示してしまったのがいけなかった。それならお前やれと迫られるスキを見せてしまったのである。おかげでこの連載を引き受ける羽目に追いこまれてしまったという次第。 *  それはともかく、話しを具体的にするために、ここで一つ実例を挙げてみよう。連載全体の前置きとして、翻訳というプロセスが、いったいどれだけの作業をふくんでいるか、どれだけ複合的な判断が必要とされるのか、多少とも具体的に明らかになるかもしれない。  


以下、原文をあげ、どのように訳していくかを丁寧に解説しています。ここで注目していただきたいのは、単に言語の変換ではなく、プロセスとして「翻訳」をみていることです。ここに「翻訳英文法」の特長があるといえます。